Minami Yamanaka
andante 2020~
Kousuke Koyama

“眠そうにおはようを言い交わす
昨日より暖かい風が肌に触れる
お気に入りの形の雲を見つける
鬼ごっこをしながら帰る小学生とすれ違う
どこかの家から漂う焼き魚の匂い
明日は満月だなと空を見上げる
日常に溢れる小さなできごと
ひとつひとつがほんとうは幸せで
自分が生きていることを実感できる
日々に埋もれ 見落さないように
歩くくらいの速さで 今日も生きよう
2019.12.19 山中南実”
(個展「andante」のキャプションより引用)
3年前から撮り続けていた「生との距離が縮まる瞬間」は、今までの当たり前だった日常が大きく変化したことによって、意味合いも位置づけも変わってしまったように思う。
「andante」は、忙しない日々を繰り返すことで息苦しくなることもあるが、写真を通して身近な事象や自然の移り変わりを見つめ、たまには一息ついてもいいのではないかと提案をするような作品だ。 普段の生 活で意識して見ていなかった小さなことに目を向けることで、日常が愛おしくなるような生の感覚と距離が縮まる瞬間があると思う。
しかしこの1年で多くの人の生活様式や環境が変わった。忙しない社会の流れがステイホームという形で緩やかになったのだ。また意図せず忙しなさに振り回されているひとや、もしくは不本意な形で時間ができたひともいる。日常の在り方や存在と密接なテーマである「andante」の前提が揺らいだ。
これからの「andante」はどうしようかと考えた。コロナが収まり以前の日常が戻るまでこの作品を寝かせておこうか?しかしコロナ禍の今も間違いなく日常であり、それをなかったことにはできないと思った。現実の問題を解決することはできない、そして作品が実体として力を持つものではないが、今の日常を撮り続けようと決めた。
撮りながら見えてきたのは、今までずっと見つめていた身近な事象、自然の移り変わりはコロナ禍でも変わらずあり続けていたことだった。朝になれば日が昇り、陽に当たればあたたかい。公園の木々にとまる鳥たちが鳴いている。何もかもが変わったように見え、先が見えない事で不安になってしまうが、わたしたちを包む大きな世界の輪郭は変わっていない。日々の移ろいゆく、変わらないものたちの存在に安心した。改めて身近なものを見渡すことで広がりをもつことができる。
この作品が身近なひとや見てくれたひとにとって小さなきっかけとなり、少しでも日常の救いになったらいいなと願う。





山中南実/Minami Yamanaka
https://minamiyamanaka.com
東京都出身、日本写真芸術専門学校卒業
2019年Alt_Medium(東京)にて個展「andante」を開催。