​Koma gallery 特別企画-2 Guest Talk/後編

​(インタビュー=高橋義隆 文/構成=松岡瑛理 写真/企画=植田真紗美 山口美桜 企画=山中南実)

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座談会の様子(左から、植田真紗美、有元伸也、高橋義隆、山中南実、鳥原学)「武蔵野プレイス」にて。

日本における自主ギャラリー的な動きはいつ頃から始まったのか。現在までその動きはどのような形を汲んできたのか。今後はどうなっていくのか?

Koma galleryオープニング企画としてゲストにTOTEM POLE PHOTO GALLERY設立者で写真家の有元伸也さん、写真評論家の鳥原学さん、Koma galleryメンバーの植田真紗美、山口美桜、山中南実、進行役としてライターの高橋義隆さんの6人で自主ギャラリーをテーマに座談会を開催しました。

座談会の前半では自主ギャラリーの変遷や現状について、後半ではスタートを切ったKoma galleryのこれからについて語り合いました。

展示のマンネリ化を防ぐには

 

植田:Koma galleryに属するメンバーは、作品制作が中心だったり、他にも仕事をしながら写真も撮っていたりと、日頃の活動のスタイルはそれぞれ異なります。ただし、志を持って写真制作を続けたいと思っているという点は皆、一緒です。そこで後半では、ギャラリーでの展示経験をどのように写真家としてのキャリアにつなげていけるかを中心に、お話を伺いたいと思います。

高橋:例えば、「TOTEMPOLE PHOTO GALLERY」のメンバーだった甲斐啓二郎さんはギャラリーで発表した作品をまとめた写真集「骨の髄」を出版し、さがみはら写真賞や伊奈信夫賞などを受賞され、評価されました。ギャラリーでの活動が目に見える形で成果に現れている好例です。

有元:そうですね。甲斐さんが写真集を作ることになったのは、もともと、アートブックフェアへの参加がきっかけでした。出版社の方がブースに足を運んでくださり、そこから展示を見にきてくださって、話が発展していったんです。

日本の社会は、出身校とか、どの会社に所属している誰々というのを大切にする。そのこと自体に良し悪しはあると思いますが、ギャラリーに所属しているというバックボーンがあると自身の作品や活動を知ってもらえる機会が増えるという面は間違いなくあります。

 

高橋:有元さんは「TOTEMPOLE PHOTO GALLERY」だけではなく、「禪フォトギャラリー」(東京・六本木)でも展示をして、写真集を制作していますね。

 

有元:はい。立地で見ると禪フォトの方が人は集まりそうですが、実際のところは、トーテムの2週間の来場者数と禪フォトの1ヵ月分の来場者数はほぼ同じぐらいです。

 

鳥原:甲斐さんのように自主ギャラリーの中からも賞は出てくるようになっていますし、シリーズでやっている展覧会なども経歴として評価を受けるようにはなってきています。その際、ポイントとなるのは人と違うことをやっているかどうか。一体何が自分自身の「ウリ」なのかを意識しながら作品を作ってみるといいと思います。

 

山中:私からも質問です。ずっと同じメンバーでギャラリーを運営していると、展示内容が似たり寄ったりになるなど、マンネリ化してしまうのではないかという点が気がかりです。新陳代謝を下げないためのコツはありますか。

 

有元:一番大切なのは、「ギャラリーを閉めない」ということですね。「TOTEMPOLE PHOTO GALLERY」は13年間、正月以外は休みにしたことがないんです。ふらっとギャラリーに足を運んだはいいけれど、いざ行ってみたときにギャラリーが休みだったらもう二度と足を運ばないという人もいるぐらい、お客さんというのはシビアな生き物です。

 

高橋:もっと色々とお話を伺いたいところですが、時間が近づいてきてしまいました。今日の座談会の感想を一言ずつお願いします。

 

植田:長年ギャラリー運営に携わってきた有元さんの目線から具体的なアドバイスが聞けてすごく参考になりました。鳥原さんから伺った歴史の話についても、今後に活かしていけたらと思っています。

 

山中今までは作品を撮っていることが多かったので、写真の歴史を総体的に振り返る機会がありませんでした。鳥原さんのお話を伺い、自分達のギャラリーが歴史と地続きになっていることを再確認できました。

 

山口:同感です。過去の写真芸術の歴史があって今があることを改めて思い知りました。作品を作る上でも有益な経験だったと思っています。

足を運ばないとできない経験がある

 

高橋:2021年8月時点、都内では緊急事態宣言が続いています。最後に、来廊を考えている方へのメッセージがあればお願いします。

植田:コロナ禍の今、声を大にして「ギャラリーに来てね」とは言いづらい部分があることは否めません。けれども、やはり展示現場に足を運ばなければできない経験があるということは、声を大にして言っておきたいです。今後はメンバー以外の写真家の企画展示も行っていく予定です。ギャラリーという「箱」は同じでも、作品によって空間の見え方は変わってきます。ぜひ一度だけではなく、二度、三度と足を運んでほしい。1階には美味しいケーキ屋さんも入っていますし、寄ったついでに近隣散策も楽しんでもらえればなお嬉しいです。

山中:美術館に足を運ぶことはあっても、わざわざ写真を「見に行く」という感覚は一般的ではありません。ギャラリーと聞いて敷居が高い印象を持ってしまう方も多いかもしれませんが、フラットな感覚で足を運んでみてもらえたらと思います。写真以外の展示も行っていく予定で、ジャンルを超えて、様々な人と交流できる場になればいいなと思っています。

山口:ギャラリーまで足を運んでみたはいいものの、いざ扉の前に辿り着いて 「入りづらいな」と帰ってしまったことは私にもあります。決して怖いところではありません。勇気を出して、ぜひ一歩中に足を踏み入れてみてください。

(完)

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座談会後の集合写真(左から、山中南実、有元伸也、鳥原学、髙橋義隆、山口美桜、植田真紗美)

【付録】

※座談会に参加したKoma galleryメンバーのことをもっとよく知ってもらえるように、後日、3人に別途インタビューを行いました。記事を読んで、3人のことが気になったら、以下もぜひ読んでみてください。

 

 - 写真の世界を目指すまでのことを教えてください。

 

植田:高校生時代は美大への進学を考えていましたが、両親の反対を受けて美術学部のある大学へ進みました。写真に本格的に関心を持ち始めたのは、大学時代に4年間写真部に所属したことがきっかけです。卒業後は広告会社で営業職に就いていましたが、やはり写真の仕事が続けたくなって、夜間の写真専門学校に入り直しました。その後、出版社の写真部、東京都広報広聴部の写真担当を経て、今はフリーランスとして活動しています。専門学校を出るタイミングで、鳥原さんに「仕事をしながら作品を発表する場を持っておいた方がいい」とアドバイスを受けて、友人と一緒に『WOMB(ウーム)』という同人雑誌も制作しています。

山口:写真を撮り始めたのは高校生のときです。美術科に在籍し日本画を描いていまして、その際の参考資料として風景や動植物を撮っていました。葬儀社に就職したのちスタジオに転職、人物撮影を担当した時に、自然物とは違い環境をセッティングして撮影することがまるで別世界に感じまして。基礎から写真を勉強し直したいと思い、26歳で専門学校に入り直したんです。現在は、出身地である茨城県笠間市に戻って作品制作を続けています。

山中:高校時代、一眼レフを使って思い思いの写真を撮り、暗室でプリントをするという授業を履修しました。高校生なので、行動範囲はせいぜい学校か自宅周辺という点では皆一緒。それなのに、出来上がったものを見るとある人は友人の真顔、ある人は先生の頭部、また別の人は通学路など、人それぞれの視点を活かして写真を撮っていて。結果として全然違う作品が出来上がっていたことが、すごく面白かったんです。より専門的な勉強がしたいと、卒業後はそのまま写真の専門学校に進学しました。

 

 - これまで、どんな作品を撮ってきましたか。

植田:代表作は『海へ』という作品群です。自宅から海へ行く途中の風景を撮ったシリーズで、なかには残酷だったり、目を覆いたくなってしまうようなシーンもあります。制作当時、父の死だったり、パートナーが病に伏したりと、人生の節目となる出来事が続きました。海へ向かう風景にその色々なことを重ね合わせながら撮影していました。現実とイメージを織り交ぜた、「生」をテーマにした物語のような作品になっています。

山口:社会人の時、仕事で長野県の上高地に足を運んだきっかけで、山をテーマに作品を作り始めるようになりました。風景写真と説明することもありますが、写真自体は反射的に撮っているので、手法はスナップに近いかもしれません。どの作品でも「月日を過ごす」(食べて取り込む)というテーマは常に意識しています。

山中:日常のなかで「生」を感じる瞬間を意識しながら、スナップショットを撮ってきました。きっかけは、せわしなく過ぎる日々に息苦しさを感じて、カメラを持って自宅付近をふらふら歩き回るようになったことでした。シャッターを押す時はあまり深く考えず、瞬間的に「良いな」と思ったタイミングで切っています。ただし、いいなと思うものを見逃さないように、普段からなるべく身の回りのものに意識を向けるようにしています。

 - ギャラリーで挑戦したいことや、これから撮ってみたい作品があれば教えてください。

 

植田:例えば川をテーマに作品を作ることになり、光が反射してキラキラと輝く川面を撮影したとします。撮影したものをどう表現するか。雑誌をはじめとする紙媒体、インスタなどのSNS、ホームページなどのweb媒体では、それぞれできることが変わってきます。媒体ごとの特性を生かしつつも、反射や反映をきれいに見せられるような展示手法に挑戦したいです。来訪者の生の声を聞くことも大切にしていきたいですね。ギャラリーは話しかけるタイミングさえ間違えなければ、フィードバックをもらいやすい場。直接感想を聞かせていただけることは、写真家としての成長にもつながると思っています。

 

山口:これまで長野県で撮影を行うことが多かったのですが、今後は地元である茨城県笠間市の風景にも目を向けたいなと思っています。今は写真撮影が中心ですが、絵を描きたい気持ちも残っていて、両方の良さが生かせる作品を作りたいです。

山中:今一番興味があるのは、地元である東京都江戸川区の水辺の風景と、そこに住む生き物たちです。去年(2020)年の緊急事態宣言以降、自宅で周辺を散歩する時間が増えまして。毎日2~3時間は歩くようになって、江戸川区ではどの道を進んでも「川」もしくは「海」と水辺に行きあたることに気付きました。街の歴史について学びながら、生物や土地にとって河川は一体どういう存在なのかを掘り下げていきたいと思います。

<ゲスト>

鳥原学(とりはら・まなぶ)/写真評論家

1965年、大阪府出身。近畿大学卒業。日本写真芸術専門学校主任講師、東京造形大学、武蔵野美術大学、東京ビジュアルアーツ非常勤講師。2017年、日本写真家協会賞学芸賞受賞。著書に『日本写真史(上·下)』(中公新書、2013年)、『「写真」のなかの私』(ちくまプリマ―新書)、『時代を写した写真家100人の肖像(上·下)』(玄光社、2018年)など。


有元伸也(ありもと・しんや)/写真家

1971年、大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年、第35回太陽賞受賞。2008年 『TOTEM POLE PHOTO GALLERY』を設立。2017年、日本写真協会作家賞、林忠彦賞受賞。

 

髙橋義隆(たかはし・よしたか)/ライター
1975年生まれ。著書に『言葉の果ての写真家たち』(青弓社刊)、共著に『日本の現代写真1985-2015』(クレヴィス刊)。

 

<構成>

松岡瑛理(まつおか・えり)/ライター

早稲田大学第一文学部美術史専修卒業、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位習得満期退学。2018年より『サンデー毎日』記者。2020年より『週刊朝日』記者。

<Koma gallery所属作家

植田真紗美(うえだ・まさみ)/写真家

東京都出身。玉川大学、日本写真芸術専門学校卒業。新聞系出版社写真部、東京都広報課写真担当を経てフリーランス。2012年、第1回キヤノンフォトグラファーズセッショングランプリ(キヤノン賞)受賞。2018年、第19回写真 「1_WALL」 ファイナリスト。写真集に『海へ』(trace、2021年)。2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作、発行。2021年「Koma gallery」を設立。

 

山口美桜(やまぐち・みお)/写真家

茨城県出身。写真館に転職した際に写真作品に触れ日本写真芸術専門学校へ入学。翌年「Koma gallery」の設立に参加。同galleryで「うきぐも」「日食む」の作品を発表。風景や景色を主な被写体としてテーマは様々に作品を制作している。

 

山中南実(やまなか・みなみ)/写真家

1997年、東京都出身。日本写真芸術専門学校卒業。2019年、Alt_Mediumにて「andante」開催。2021年、「Koma gallery」を設立。「日常のなかにある生」をテーマに作品を制作している。主な作品に「andante」「今日の花を摘む」がある。