Koma gallery 特別企画-1 Member Talk
(編集/写真/企画=小山幸佑 企画=栗森貴大 フジモリメグミ)

2021年4月に恵比寿の地にオープンしたKoma gallery。以来、依然続くコロナ禍にも関わらず沢山の方々に足をお運びいただきました。今回は特別企画として、当ギャラリー所属メンバーである栗森貴大、小山幸佑、フジモリメグミの3名により、Koma gallery設立前夜の話から今後の展望まで、さまざまなテーマに渡って対談を行いました。
初めに、Koma galleryの設立経緯について教えてください。
フジモリ:まず私と小山くんは2019年まで、清澄白河にあったTAP Galleryという自主ギャラリーに所属していました。同ギャラリーに在籍中から、もうちょっと都心にアクセスの良い場所でやりたいという思いや、もっとたくさんの人、知り合いや写真関係者だけでない様々な人が立ち寄れる場所でやりたいという思いがあり、いずれはそんな場所で自分でギャラリーを立ち上げたいと思っていました。7年間在籍したTAPを卒業して、そのとき最初に声をかけて一緒に動き出したのが小山くんでした。小山くんは、TAP在籍当時から、同世代の写真家を集めて冊子を作る活動をしていたり、仕事的にも新聞社を退職してフリーランスになるタイミングであったりしたので、なにかしら新しいアクションを起こしたいように感じていたので、これはもしかしたら上手くやれるかも、と。
小山:僕はTAP Galleryには3年間所属していました。フジモリさんと同じく、いずれ自分でギャラリーを作りたいという思いを持ってはいましたが、当時別に動いてた仲間内でいずれギャラリー立ち上げ、と思ったら話が白紙になってしまったりということがあって、実現するのはもう少し先になるかもしれないな、と思っていたところでした。そんなタイミングで同じ自主ギャラリーに所属していたフジモリさんに声をかけて頂いたことで、お互いTAP Galleryで培った運営経験があるし、上手くいくかも、という予感がして。そうしていよいよ腹を括った、という感じでした。
フジモリ:そこからお互いの知り合いや後輩などの中から、作家活動を継続している人たちに声をかけて誘っていきました。
小山:メンバーを決めていった際は、経験や作品数などあまり色々な条件で限定することは避けつつも「発表の機会がないと感じている(であろう)人」というのがひとつの基準としてありました。詳しく後述しますが、自主ギャラリーというものはそのような人たちのためにあるから、という考えがフジモリさんと僕との間の共通認識としてあったからです。
フジモリ:いろいろな出身校の方に声をかけていたのですが、最終的には同じ専門学校の卒業生9名という形で立ち上げメンバーが決まったよね。
栗森:僕は学生の頃に卒業してからも作品制作を続けていきたいと思った時から、フジモリさんや小山さんのように自分自身のギャラリーを持ちたいと考えていました。写真学校を卒業してからは生活環境がその時々で変化していたこともあり、撮影はするものの発表することができていませんでした。写真のストックだけが溜まっていく中で、母校のOB、OGの方が自主ギャラリーの立ち上げを計画しているという話を聞き、これだ!!と感じ参加をすることに決めました。
小山:様々な人に声かけたり紹介してもらったりして、仕事後の夜に渋谷のジョナサンで作品をみせて頂いたり、その後しばらくはそのジョナサンが定期的なミーティング会場になっていたのですが、コロナが蔓延するようになってからはミーティングは各自宅からのオンライン方式に切り替えました。その後、コロナによってオープンの予定が延期したりと紆余曲折ありつつ、私たちのやりたいことを理解してくれたうえで色々と相談に乗って頂けた内装業者さんのほか、様々な形で支援して頂いた方々のご協力があり、2021年4月にオープンを果たすことができました。


2021年3月、内装工事中のKoma gallery。居住用だった2間物件の仕切りを取り払い、1つのギャラリー空間へと改装した。
そもそも「自主ギャラリー」とはどのようなものですか。また、アーティストという視点から、自主ギャラリーに”所属する”ということに、創作活動上どのような利点がありますか。
栗森:「自主ギャラリー」とは、各所属メンバーが家賃等を負担し合って共同運営を行うギャラリーです。ギャラリストがいるわけではないので、自分自身の作品を自分主導で展示できるギャラリーです。コンペに通ることで展示が可能になることの多いメーカー系ギャラリー等と異なり、作品の到達点にかかわらず展示できるのが大きな強みであり特徴です。そのためにも各メンバーが経費を負担し、展示以外に運営上発生する雑務などもこなす必要があります。
小山:作品制作の過程というのは試行錯誤の連続で、はじめから最短距離で完成まで突っ走れることなんてまずありません。プロジェクトのために当初に立てたコンセプトの通りにはまず行かないし、調子が良い時もあれば悪い時もある、時には1枚の写真を入れるか抜くかで何ヶ月間も悩んだりすることもあるかもしれません。しかも、それがそもそも誰に頼まれ望まれたわけでもなければ辞めるも続けるも自由なのですから、それはとても孤独で苦しい作業になります。そういったまだ未完成の状態において、時に人の目に晒して意見や反応を直接確かめるいうことがブレイクスルーのきっかけになったりすることは往々にしてありますし、むしろそれは作品をより良いものにしていく過程において必ず必要な経験だとも思います。そこで、まずはポートフォリオレビューなどに参加してみるのもありなのですが、あくまでプリントを壁にかける展示という形式をとりたいのなら、まずはそれをすることを受け入れてくれる「場」が必要ですよね。私たちのような小さな自主ギャラリーは昔から沢山ありますが、そこで写真展を何度もやって作品の改良を重ね、やがて大きな場所でその集大成を発表し、それが評価されるという形で自主ギャラリーからもっと大きな舞台へと出ていった作家は大勢います。つまり、自主ギャラリーという存在は、無名作家が実験を繰り返し、試行錯誤を経て実力を育むための土壌になっているんです。
フジモリ:それに近年は雑誌の廃刊やコンペの規模縮小など、私が学生の頃目標にしていたような存在は徐々に減少していきました。かといって、私のような作品を作っている作家は、インスタグラムなどのSNSで作品を発表するだけではやっていけないし、自分自身を満足させることもできないなぁと感じていて。そのような点で、自主ギャラリーは、自分の作品を継続的に発表していくことで作家が社会とつながっていくことが出来る場所、なのだと感じています。
小山:他にそのような若い作家が実力を育むための場というのは、例えば写真学校がそれにあたるかもしれませんが、むしろ学校を卒業してからの方がそのような場の必要性は増していくと自分の経験上からも思います。僕も写真学校を卒業していますが、もう写真を辞めてしまった同級生を何人も知っていますし、誰に頼まれた訳でなくともモチベーションを維持して写真を続けることそのものがまずはとても重要な課題なんです。
フジモリ:私自身、20代半ばの頃、作品があるのに発表する機会が持てなかったり、モチベーションを保つことが難しいという中でフラストレーションを抱えていた頃に自主ギャラリーの存在に出会えて、そこで継続的に作品を発表できた経験があるからこそ、今の私がいると思っています。私にとって自主ギャラリーとは、救いの場であって、作家という生き方をしていくための修行の場かな。

ロゴマークはグラフィックデザイナーの溝口功将氏作。「独楽の不規則な軌跡」を表している。独楽が自立するためには、常に回転し続ける必要がある。
小山:それから、展示を「しなければならない」状況へ追い込まれる、逆に言えば自分を追い込むことができる、という点も、自主ギャラリーに所属する上での特徴でありメリットだと思います。年数回の定期的な個展という形でスケジュールが先に決まるので、初めは手持ちの作品で良いかもしれませんが、徐々に手持ちが減っていき、しかし会期は既に決まっているので新しく撮らざるを得なくなる、という。それがモチベーションの維持にも繋がりますし、ブラッシュアップの機会を繰り返すことで新たな気付きも生まれやすくなり、そうしていつのまにか手元にたくさんの写真が溜まっていきます。僕は2017年に写真学校卒業後、出版社のフォトグラファーとして一度就職したのち去年から独立して今はフリーランスなのですが、「仕事としての写真」と「写真を通した創作活動」のどちらも両立させたくて、就職と同時に前述のTAPギャラリーに所属しました。会社員時代は週末や長期休みなどを利用して制作に当たっていて、なんとかペースに付いていこうと必死になっているうちに作品が溜まっていき、去年はニコンサロンでの展示を開催させて頂けたほどになりました。
フジモリ:自分の作品を見てもらう機会は自分から作らない限りないですし、制作に時間も区切りもない。私自身もまずは継続的に作品を発表していく姿勢が大切だと考えているので、否応なしに締め切りがやってくることはメリットに感じています。私の場合、TAP Galleryに所属していた去年までの7年間では通算21回くらいの個展を行いましたが、必死に制作していた為、手元にはたくさんの作品を残すことができました。だいたい2~3年かけて制作した作品を再構成して外部の公募やコンペに出す、という目標で制作していたので、ここ数年ではニコンサロンで2回、エプサイトギャラリーで1回の大きな展示会をすることができました。私は油断するとダラけに向かうタイプなので、自主ギャラリーに所属しての制作活動は自分に合っていると思います。だからこそ続けてこれたし、これからも大切にしていきたいです。
栗森:僕の場合、やはり撮影は楽しいので、写真学校卒業後も仕事の合間を縫って続けていくことができました。ただ、限られた時間の中で、どうしても撮影を優先してしまい、作品としてまとめていく作業が疎かになりがちでした。そういった状況のなかで、締め切りが決まることにより、撮影とまとめる作業のリズムを作れたのがよかったなと思っています。定期的に作品を発表し、その都度自身の作品を客観視することが重要だと考えているので、この良いリズムを継続していきたいですね。
小山:とはいえ「年3回の個展」というもののハードルは、実際かなり高めだったりします。何ヶ月も遠方や海外などでまとまった取材をする必要があるような作品を制作している人や、そうでないにしてももっとじっくり作りたい人など、展示頻度と制作スケジュールが合わない人に対しての措置が必要だと思ってもいて。そこで、現在Koma galleryでは、365日をメンバーの数で割った日数を公平に分割するシステムではなく、毎月の月会費をAとBの2段階に分けて、その割合に応じてスケジュールをフレキシブルに分配する方法を取っています。
フジモリ:そうだね、年3回の個展ていうのは、実際のところなかなかハードだった。自分自身の経験や他メンバーの制作ペースを見ても、Komaでのスケジュール配分の仕方は我ながら良いシステムだなと思う。私は年3回ペースをキープしていくつもりだけど、みんなにも年2~3回で頑張って欲しいなとは思っています。継続は力なり、なのだ。
栗森:インターネットが発達したことを考えると、ウェブ上でもいつでも写真を発表することは可能です。ですが、液晶で画像として発表するのではなく、リアルな空間でリアルな物質としての写真を展示し発表することに、自分はこだわりたいです。リアルで体験することにはかなわないと思っているからです。そのリアルな場で継続して発表するベースを持てることはやはり大きな利点だと思います。
小山:僕たちの様な作家には何か特別な資格があるわけではありません。だからこそ、継続的に作品を制作/発表していく、ということが、ある種のパスポート更新のような意味合いを持っているような気はしています。写真作品の制作という共通の目的を通した同業の仲間がいる空間で、モチベーションを維持しつつ制作活動を継続可能なものにしていくこと、そうしていずれ高いところへ登るための実力を育む「道場」的な役割が、僕たちのような小さな自主ギャラリーの存在意義のひとつだと思います。

既に全てのメンバーが1度ずつ個展を開催し、メンバー展は現在2週目に突入している。バックヤードの扉の裏には今までの展示のDMが並ぶ。
既に様々な自主ギャラリーが存在する中、新たにKoma galleryを立ち上げようと思った理由についてお聞かせください。
小山:フジモリさんと僕が長い間所属していたTAP Galleryが活動を終了した時、ギャラリーにもその役割を終える瞬間があるんだ、ということを初めて感じたんです。TAP Galleryも、10年前に当時若手だった4人の写真家(齊藤明彦さん、佐久間元さん、湊庸祐さん、村越としやさん)により設立されました。もちろん創作活動に年齢制限などありませんが、Koma galleryには20代~30代のメンバーが集まったというのもあって、世代のことは多少なりとも意識せざるを得ません。TAPのクローズとKomaのオープンがタイミング的に重なったというのもあって、もしかしたら自主ギャラリーというものはこうして世代交代していく運命なのなのかも知れないと思いました。
フジモリ:TAPのクローズとKomaのオープンのタイミングが重なったこと、ちょっと切なかったけど、こりゃしっかりやらなきゃいかんな!と尻を叩かれたような気もした。Komaで活動していく中で、私より若い子たちからまた新しいギャラリーを立ち上げてくれたりしたら嬉しいなと思ったりもする。もっと盛り上げていきたいよね。
栗森:そうですね、TAPがクローズすると聞いたときは、TAPのメンバーの中で特に親しくさせて頂いていたフジモリさんと小山さんが卒業していたとはいえ、学生時代から事あるごとに通っていたので、僕ですら寂しさを感じました。何となくですけどTAP Galleryは続いていくものだと思っていたので。そういったなかでギャラリーを新たに立ち上げられたことは大きな意味があるのかなと思います。
小山:ちなみに、いまKoma galleryで共用品として使っている木製額ですが、かつてTAP Galleryで共用額として使用されていたものを、佐久間さんに頼んで譲って頂いたものなんです。ギャラリーを立ち上げるという新しいことを始めた裏で、それは歴史や人と人との繋がりの中で存在しているんだということを、この木製額を見るたびに思い出したりしますね。
フジモリ:そうだね、TAPから引き継いだものは経験だけではなく、額や壁塗り関係の機材などもありました。

